Arida Story 01有田みかん
太陽と海に愛された絶品フルーツ
みかん色の世界を旅して
ぐるりと見渡すと、どこを訪れても山に広がるみかんの段々畑。
町の中にもみかん畑があちこちにあり、秋冬はどこもかしこもみかん色に染まります。そんな風景はまさに“みかんの国”と感じさせるほど。
和歌山県は平成16年(2004年)からみかんの収穫量日本一の記録を更新し続けています。中でも「有田みかん」のブランドで知られるこの地域のみかんは、果樹王国和歌山を代表するフルーツ。
外皮は薄く、中の果実はジューシーで、濃厚な甘みの中にある酸味が爽やかなアクセントとなり、ついつい何個でも食べてしまうおいしさです。
なぜ、ブランドとなるほどに「有田みかん」がおいしいのか。
今回はその鍵を探ろうと、みかん農家さんとみかんの生産・加工・販売を手掛ける地元企業さんを訪ねました。
日本一のみかん産地
実はみかんで生計を立てたのも日本初!?
左右に剥いた瞬間、辺りに広がる爽やかな香り。そして、口に含むと、とろけるようなまろやかな甘みが広がる「有田みかん」。
この地域は、平地が少ない一方で、年間を通して温暖で日照時間が長く、みかん栽培に適した気候が整っています。それに加えて、水はけに優れた土壌、山の傾斜を利用して段々畑が作りやすい地形など栽培条件にも恵まれました。
その地勢や地質を生かし、日本で初めてみかん栽培を生計の手段に発達させ、さまざまな品種がある中から多くの優良品種を発見し、持続可能な発展を続けてきたのが「有田みかん」。
このように、この地域を日本一のみかん産地に発展させた持続的農業システム「みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム」は令和3年(2021年)に日本農業遺産にも認定されました。
人とともに生きる
個性豊かなみかんとの日々
「有田みかん」と呼ばれるのは、この地域で栽培される温州みかん。10月頃から極早生が出荷され始め、11月頃から早生、12月頃から中生、1月以降には晩生と順に品種が変化していきます。
早生品種は11月頃までの産地が多いそうですが、今回お話をお聞きした農家さんの地区では、早生の栽培に向いている土地だから年内いっぱいまで作り続けるそう。
お聞きすると、秩父古生層という養分を保つ役割がある土壌だったり、緑色片岩というマグネシウムが多く含まれている石があったりと、さまざまな条件が合わさって、早生品種のみかん栽培に良い影響を与えているそうです。
そんな有田みかんには、さまざまなおいしさの秘密がありました。
その1つが石垣の段々畑。山の傾斜に沿った園地のほとんどが石垣階段型の段々畑ですが、この石垣がすごい。平地での作業となるため効率がよくなるだけでなく、水はけがよく保温効果もあることによって、みかんの糖度やみかんの木の生育が高められます。
また、光の反射効果によって、みかんの皮全体の色合いも上がってと…驚くほどいくつもの役割を持っていました。
この石垣が、江戸時代から培われていたというから驚き。石垣のスタイルは産地ごとにそれぞれ。例えば有田川町では、昔から有田川の河原の石で組んだものが多くあったそうです。
さらに、優れた品種を探索し、育成してきた生産者たちの高い観察力も見逃せません。
みかんは接ぎ木をした苗木から育ちます。この地域では、「2年生・土付き苗木」が出荷されています。他の産地の「1年生苗木」と異なり、2年もの間十分に生育させた苗木を土付きの状態で出荷されることにより、畑へ植え替えした後も、苗木が安定した成長を続けられます。また、地域内での苗木生産をすることで、優良品種を早く普及させているんです。
このように、産地として自立性を向上させながら、それぞれの土地にあった栽培方法を考え続け、地域一体となって「有田みかん」産地を作り上げてきた先人の知恵と工夫が今に続いています。
「みかんはまるで人間」と話すのは、有田川町田口地区に畑を持つ農家さん。
その樹齢は「人とともに」と言われるように、50〜60年ほどで引退になり、もてば100年にもなるといいます。さらに、20〜30年ほどがベストな樹齢で、10年ぐらいだと元気すぎ、30年を越すと個性が際立つ場合があるというから、確かに人間と似ているような気がします。
おいしいみかんを作る秘訣は、剪定の技にもあるといいます。
「実が育つと、その重みで枝が垂れ下がってくるので、剪定は上向きにつくように。また、細い枝につく軸の細い芽が育つと、繊細な良いみかんが育つんです。こういった芽をいかに効率よく作るかが勝負。」と農家さんは話します。
聞くと、この農園では5,000本近くを同時に管理しているそう。山全体を見ながら、それぞれを丹精込めて育てる難しさは聞かずともわかります。
それでも「みかんは意外と影が好き。でも、日差しが当たらなすぎてもダメなんですよね。そういうのを考えながら作っていると楽しいし、いいものができると嬉しいですよね。収穫時期はにぎやかになりますよ。」と話す笑顔が、みかん作りの充実感を物語っています。
同じみかんでも木によって個性があり、さらに同じ木の中でも皮の質感や色味に微妙な違いが出ることも。そんな個性あふれるみかんを育てるのは、やはり人を育てるのと似ているのかもしれません。
そんな風にみかん作りを追求している姿がカッコよく見えました。
形は違えど 有田みかんそのままの味を
生の果実が多く出回るのは年明けまで。ですが、それ以外の時期もご安心を。ジュースやジャム、ゼリーなどの加工品で有田みかんのおいしさを年中楽しむことができるんです。
約40年前には、有田市内の地区ごとに農家さんたちの組合があり、研究や選果・出荷を共にしていたそうです。
今回お邪魔したのは、当時の1つの組合が独立して、生産・加工・販売までの6次産業化に取り組む地元企業さん。もとは7軒の農家さんが集まってできており、みかんそのものへの追求はもちろん、加工品へのこだわりも強く持たれています。
「加工度の高いものは作らず、みかんの味を大きく変えないこと」にこだわり、商品はいずれも果汁を贅沢に使ったものばかり。果汁100%のジュースはもちろん、91%のジュレ、75%のアイスと、どれも果汁率が高くみかんの味わいが濃厚です。
「うちはみかん屋。みかんそのままの味を知ってもらいたい」という言葉に垣間見えるのは、みかん愛と農家としてのプライド。お話を伺う中で、果汁の搾り方からも、こだわりが見えてきました。
一般的なみかんジュースは、摘み取ったままのみかんを外皮ごとプレスすることが多いのですが、その方法だと皮のオレンジオイルで果実とは違う風味が混ざってしまいます。そこで、みかんそのままの味をジュースにできるよう採用したのが、搾る前に皮を剥く「チョッパーパルパー方式」でした。
皮がきれいに剥けるように蒸気をあてて柔らかくし、皮を剥いてからは、薄皮ごと裏ごしするように搾っていきます。すべての工程を機械化できないため、最終的には人の手でひとつずつ皮を剥くというこの作業は、手間だけでなくコストもかかるため敬遠されがちですが、この方式を採用することで、みかん本来の味に極めて近いジュースが搾れるようになりました。
また、この時に出る皮も、陳皮や入浴剤に加工するなど、余すところなく活用されています。
有田みかんの持ち味である甘みと酸味の絶妙なバランスの味わいは、こだわりをもった加工屋さんによって加工品になっても存分に生かされています。
こちらの企業では生産も行なっていますが、もとは複数の農家で成ることから、栽培の細かな方針はそれぞれ違うそう。ですが、最終的に「おいしいみかんを作りたい」という気持ちは共通しています。
また、この地域の200〜300軒の農家さんと共選とも協力し、自社の栽培量だけではまかないきれない分は素材提供をしていただいているそうです。もちろん、扱うのは有田みかんオンリー。そして、仕入れのポイントは「なるべく高値で買い取ること」なのだとか。
この地域で同じようにみかんを作り続けてきた農家であり、加工にも携わる企業だからこそ、地元の農家さんがやりがいを持って良質なみかんを作り続け、産地を守っていけるように、作り手に寄り添い、地域のプライスリーダーとして有田みかんの価値を高めようという想いが伝わってきました。
いいみかんとは、どういうものだろう?
尋ねてみたところ、「糖度が高いだけでなく酸も適度にあり、コクがあって後味がしっかり残る。そういうみかんを意識して作っています」と農家さんは話してくれました。
糖度が上がるほど着色が上がり、赤みのさしたみかんを「紅がのる」と言うのだそう。適度に光を浴びた実は、きめ細かく「紅がのった」甘いみかんに。このみかんのおいしさを味わえば、きっと癖になるはず。
「みかんの国」の本気を、ぜひ味わってみてください!
記事作成:令和4年2月
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ozawa orange farm
小澤 守史さん
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秋竹 俊伸さん