ありだストーリー 水産

Arida Story 02

ゆたかな海が育む海の幸
この地域においしい水産物が多いわけ

有田地域の水産

広大な海と大地をうように入り組んだ湾が連なるリアス式の海岸線。
海に面したこの地域は、なんといってもおいしい「海の幸」が豊富!

その1つが日本一の漁獲量ぎょかくりょうを誇る新鮮な「太刀魚たちうお」。
その拠点、箕島漁港みのしまぎょこうでは、海上でもひと際目立つ黄色い船団「うたせぶね」がずらりと並び、港内を鮮やかに彩っています。

有田地域の水産

そして、県内有数の「しらす」の産地としても知られるこの地域の沿岸部。鮮度と品質にこだわった漁師さんとその想いを受け継ぐしらす屋さんの手により、しらす本来の旨味がしっかりと引き出され最高の味へと仕上がります。


今回は、この地域の海がつなぐ「漁師さん」と「しらす屋さん」のお話をお届けします。

有田地域の水産

ぶつかり、混ざり合う潮流ちょうりゅうの贈り物

紀伊水道の北部にあたるこの海域は、関西有数の漁場です。その理由は、瀬戸内海と太平洋の狭間にあり、この2つの海と黒潮の影響を受ける分岐点ぶんきてんに位置するから。大阪湾や播磨灘はりまなだからの内海系水の流れ込みと南からの黒潮分枝流くろしおぶんしりゅうの差し込みにより複雑な潮流が発生して、栄養豊富な環境が作られることで、さまざまな魚が生息する豊かな海域になっています。このような条件のもとで、この地域は沿岸漁業が繁栄はんえいしました。

有田地域の水産

川に目を向けると、広川を遡上そじょうするシロウオを四つ手網と呼ばれる特殊な網で狙うシロウオ漁が、春を告げる風物詩ふうぶつし となっています。また、清流有田川は県内でも貴重な天然遡上の鮎の聖地。このようにこの地域は、海も川も良質な魚が育つ自然環境が整った、まさに水産物の宝庫なんです。

有田地域の水産

漁師の誇りと共に走る
黄色い船団「うたせ船」

この地域の水産を語る上で外せないのが「たっちょ」。なんのことだかわかりますか?

聞き慣れないこの言葉、実は「太刀魚」のこと。昔から地元では「たっちょ」と呼ばれ親しまれてきました。
その特徴は、名前の通り太刀のように長く、銀色の輝きを放っています。ブツ切りで焼いてよし、煮てもよし、鮮度が良いと刺身もよし。また、地元では骨ごとすり身にして揚げたものが食卓の定番になっています。

有田地域の水産
底引き網漁の様子

この海域を含む紀伊水道の北側は潮の流れが速いため、身の締まった太刀魚が獲れると言われています。漁は年中行われており、水温の下がる正月以降は特に脂ののりがよく「ドラゴン」などと呼ばれる大きなサイズが出回るようになります。

有田川の河口に位置し、太刀魚の全国屈指の漁獲量を誇る箕島漁港。ここでは通称「うたせ」と呼ばれる底引そこび網漁あみりょうが主流。かつて動力がない頃にやぐらぎ打たせてあみいた「漕打瀬うたせ」やに風を打たせて進む「帆打瀬ほたせ」から名付けられたそうです。

有田地域の水産

漁法はシンプルに、船の後ろから専用の「たち網」を海に投げ入れ、群れを探しながら網を引くというもの。海底からの網の高さなどを計算しながら魚を引き入れるこの漁法を編み出し、全国に広めたのが箕島の漁師なんだそう。

有田地域の水産

船着場ふなつきばにずらりと並ぶ黄色い「うたせ船」は海上でもひときわ目を引く鮮やかさ! この雄々おおしいイエローカラーがうたせ漁師の誇りを表しているようです。

有田地域の水産

出港は朝の3時。暗闇くらやみの中に最初のエンジン音が鳴り響くと、それが合図のように船が一斉に大海原おおうなばらへと出ていきます。

それぞれの船の上では魚との真剣勝負。網が揚がると即座に鮮度保持を行い、船上で選別し、網を揚げて…の繰り返し。約1トンの網を1度の漁で5回程度引くことから、港に戻るまで休む間もないほど。選別は太さで行い「とび(ドラゴン)」「あら」「中」「白髪しらが」「ひも」「ビリ」など、漁師独特の格付けも箕島流。

有田地域の水産
箕島漁港 尾藤文紀さん、田中孝さん

漁師たちは互いにライバルでありながら仲間。「黄色い船団せんだん」の絆は厚く、時ににくまれ口を叩きながらもとにかく仲がいいんです。みんな笑顔が底抜けに明るく、「一番は鮮度! 大きいのを獲るためにいつも試行錯誤しこうさくごしてるわ」「大変なのは選別。けど、たくさん獲れたら嬉しいな」と話す姿も楽しそう!

有田地域の水産

ここには3~4代続く漁師家系が多く、出港後は家族が港で帰りを待ち、船の到着と同時に一気に活気付きます。魚は大量の氷で鮮度を保ちながらすぐにリヤカーでセリ場へ。このように家族総出で海とともに生きる姿は、この地の変わらぬ風景です。黄色いうたせ船とともに大量のリヤカーが並ぶ光景もまた箕島漁港の名物です。

湯浅のしらす

鮮度をそのまま旨味に変える 
昔ながらの加工の技

漁の歴史とともに磨かれてきたのが加工の技。濃厚な味わいと柔らかい食感を持つ質の良いしらすはこの地域の名物のひとつです。水揚げされたままの新鮮な状態で加工される釜揚げしらすやちりめんは、名だたる産地と並びトップクラスです。

一般的にしらすと呼ばれるのはイワシの稚魚ちぎょ。マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3種があり、最もよいとされるのは色が白く、弾けるような食感を持つカタクチイワシ。しらす漁は1年を通して行われますが、脂がのってしらすが最もおいしくなるのは春と秋。旨味がたっぷり詰まった身は、香りも風味も抜群で、ご飯が何杯でも食べられそうなほど。

湯浅のしらす

しらすは、網から揚がると運搬船うんぱんせんで港に運ばれます。この運搬船が1日に数回漁船と港を往復することにより、常に獲れたての状態が保たれています。

港に届けられたしらすは、しらす屋さんによって素早く吟味されます。目利きの基準はツヤや色味といった見た目や手触りなど。そして、買い付けられたしらすはそのまま加工場へ直行。こうして漁師、加工業者の両者による徹底てっていした鮮度意識によって昔から確かな品質が守られてきました。

湯浅のしらす
しらすを炊き上げる様子

しらす本来の旨味を引き出すのが加工の技。この地域のしらすは味がしっかりしており、後味はさっぱりとしたバランスの良さが特徴です。その旨味を最大限引き出すのは、水と塩のみで炊き上げる昔ながらのシンプルな製法。だからこそ難しく、塩加減や使う塩、水で味が左右されるんです。

洗いの工程では小さなカニやエビなどを取り除き、茹でる段階では塩分濃度や温度、引き上げる時間など緻密ちみつに計算されています。

湯浅のしらす

「いいものを後世に残したい」を突き詰めた結果、機械のみに頼るのではなく職人の手と目でしっかりと仕上がりを見極める加工が今も守り継がれています。

湯浅のしらす

炊き始めるとあたり一面にもうもうと湯気が立ち、美味しそうな匂いに包まれます。ここでも鍵となるのは鮮度。みるみるうちに釜揚げされたツヤツヤのしらすが積み上がっていきます。箱詰の前には改めてピンセットで選別も。1箱の中には鮮度を守る心意気と細やかな心遣いがたくさん詰まっています。

湯浅のしらす

「ちりめん」に加工する場合は、釜揚げした後に、蒸篭せいろに並べて天日干しをします。天候や風の吹き方、太陽の照り方でも乾き方が変わるため、見極めには熟練じゅくれんの感覚が必要となります。代々しらす加工にたずさわるしらす屋さんでも「和歌山のしらすを知っていただき、地域の発展のためになればと代々教わってきた炊き方、干し方を実践していますが、奥が深く、まだこれで完成ということがありません。日々、試行錯誤の繰り返しです」と話すほど。

湯浅のしらす
しらす屋前福 前田 竜宏さん

仕入れに釜揚げ、天日干し、選別とどの工程も手間暇のかかるものばかりですが、その1つ1つの工程を経るごとに、小さなしらすの身が何倍ものおいしさに変化していくのを実感できます。

湯浅のしらす
箕島漁港内にある産直市場 浜のうたせ

有田名物しらす丼
有田名物 しらす丼

この地域の海岸線においしい水産物が多いわけ。それは、恵まれた海の環境とともに、切れ目なく受け継がれてきた漁師さんや加工屋さんの想いと技にありました。

ここにはしらす丼を食べられるお店がたくさんあります。箕島漁港内の産直市場「浜のうたせ」では、獲れたての魚を買ったり、食事をとることもできます。海とともに脈々と受け継がれてきた水産の歴史に想いを馳せながら、漁師さんや加工屋さんたちの愛情が詰まった海の幸を味わってみてはいかがでしょうか?

記事作成:令和4年2月